「忙しいのに利益が残らない」その構造を分解する
自転車を思いきりこいでいるのに、なぜか進まない。ペダルは重く、息も切れている。どこか壊れたのかと降りて調べてみたら、後輪のブレーキがほんの少し、効いたままでした。
力が足りなかったのではありません。力が、別のところで消えていたのです。
経営のご相談で、最も多く聞く言葉のひとつが、これによく似ています。
「受注はある。現場も動いている。残業もしている。それなのに、決算を見ると利益が薄い」
これは多くの場合、「売上が足りない」という問題ではありません。利益が残らない構造になっている、という問題です。そして構造の問題は、頑張りでは解決しません。分解して、どこで利益が消えているかを特定する必要があります。
利益は「引き算の結果」ではなく「設計の結果」
売上 − 原価 − 販管費 = 利益。この式に慣れていると、利益は最後に残るもののように見えます。しかし実際には、どの製品を、どういう工程で、いくらで、誰に売るかを決めた時点で、利益はおおむね決まっています。
私は大手電機メーカーで車載用品事業の責任者として、商品企画から設計開発、量産立上げ、収支管理までを担当してきました。そこで痛感したのは、量産が始まってからできるコストダウンの幅は、驚くほど限られているということです。原価の大部分は、設計と工程を決めた段階で確定してしまいます。
だからこそ、利益が残らないときに見るべきは「どこを削るか」ではなく「どこで決まってしまっているか」です。以下、3つの軸で分解します。
分解軸①:製品別・顧客別の採算
全社では黒字。しかし中身を開けると、しっかり稼いでいる製品と、赤字を垂れ流している製品が同居している——これは珍しいことではありません。やっかいなのは、「忙しさ」の原因が、たいてい後者にあることです。
たとえば、こんな構造を考えてみてください。
- A製品:単価は高いが、月2回のまとまった生産。段取りは1回で済む
- B製品:単価は低く、小ロット・短納期。週3回の段取り替えが発生し、仕様変更の問い合わせも多い
会計上、この段取り時間も問い合わせ対応も「製造原価」や「販管費」にまとめられ、製品ごとには見えなくなります。結果として、B製品は「売上に貢献している製品」として扱われ続ける。現場は疲弊し、利益は残らない。
まずは主要製品10品目でかまいません。材料費・直接工数・段取り時間・不良率を横に並べてみてください。厳密な原価計算は不要です。それだけで、景色がかなり変わります。
分解軸②:時間がどこに消えているか
「忙しい」の正体を、時間で見ます。付加価値を生んでいる時間と、そうでない時間(段取り・待ち・運搬・探す・手直し)の比率です。製造業の現場では、後者が想像以上に大きいことがほとんどです。
日本生産性本部の調査によれば、日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル(5,720円)で、OECD加盟38カ国中28位にとどまっています(労働生産性の国際比較2025/2024年実績)。
これは、日本の現場が怠けているという話ではありません。私が見てきた日本の製造現場は、世界的に見ても真面目で丁寧です。問題は、一人ひとりの努力が付加価値に変換されにくい構造になっていることにあります。だから、個人の頑張りを増やしても利益は増えないのです。
分解軸③:値決めの根拠
2026年版の中小企業白書・小規模企業白書によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%(2025年9月時点)。上昇傾向にはあるものの、コスト上昇分の半分近くを、いまだに自社が飲み込んでいる計算になります。
値上げ交渉ができない理由を「交渉が下手だから」と考えている経営者は少なくありません。しかし現場で見ていると、原因はもっと手前にあります。根拠となる数字を出せないから、交渉のテーブルに乗せられないのです。
「原材料が上がったので、なんとかお願いします」では通りません。「この品番について、材料費が○%、労務費が○%上昇し、御社向けの単位あたりコストは○円増えています」と示せる会社は、少なくとも協議が始まります。
制度面も追い風になっています。2026年1月に施行された取適法(旧・下請法)では、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が禁止行為に追加されました。環境は整いつつあります。あとは、自社に数字があるかどうかです。
まず、何から手をつけるか
- 主要製品10品目の採算を並べる(目安1か月)
- 忙しさ上位3工程の時間内訳を測る(目安2週間)
- 直近2年のコスト上昇分を費目別に整理する(目安1週間)
いずれも、新しい設備投資もシステム導入も必要ありません。すでに社内にある情報を、並べ替えるだけです。それでも多くの会社で、これがなされていません。日々の受注をこなすことが優先され、構造を見る時間が取れないからです。
おわりに
「忙しいのに利益が残らない」は、感覚の問題ではなく、構造の問題として扱うことができます。そして構造が見えれば、打ち手は必ず具体的になります。どこを直せば、いくら変わるのか。それが言えるようになれば、投資判断も、値上げ交渉も、人の配置も、迷いが減ります。
難しいのは、この作業に時間を割く決断のほうかもしれません。しかし、忙しさの中身が見えないまま忙しさを増やしても、行き着く先は変わりません。
自転車のブレーキは、降りて、しゃがんで、車輪を回してみなければ見つかりません。走りながらでは分からない。そして、原因さえ分かってしまえば、直すことは以外と簡単です。
まずは10品目を並べてみるところから。こぐ足を、少しだけ止めてみてください。
参考
- 公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」
- 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」第1部第1章第6節 価格転嫁

