量産立上げで品質トラブルが繰り返される4つの型

家の廊下の、いつも同じ場所で小指をぶつけます。痛みに悶えながら「気をつけよう」と思うのですが、しばらく経つとまた同じ角にぶつける。注意力の問題ではありません。そこに、出っ張った家具が置いてあるからです。

同じ場所で繰り返し起きることには、たいてい構造的な理由があります。

「前にも似たようなトラブルがあったよね」——量産立上げの現場で、この言葉が出たら要注意です。品質トラブルは、単発の不運として起きるより、同じ構造で、繰り返されていることのほうが多いからです。

私は大手電機メーカーで、車載用品を中心に設計開発から量産立上げ、品質改善、委託先管理までを実務責任者として担当してきました。車載分野は、市場での不具合がリコールにつながる領域です。だからこそ「起きてから直す」のではなく「設計段階で潰す」ことに、徹底的にこだわる文化がありました。

その経験から見ると、量産立上げの品質トラブルが繰り返される会社には、次の4つの型のいずれかがあります。

型1:設計段階のリスクが、そのまま工程に持ち込まれる

多いです。設計者は「図面どおりに作れば問題ない」と考えている。しかし現場から見ると、その公差では安定して作れない、この形状では治具が当たらない、この材料は季節で寸法が動く——。

デザインレビュー(DR)を実施している会社は多いのですが、それが「報告会」になっていないかを確認してください。設計者が説明し、参加者がうなずいて終わる。製造・品質・購買の担当者が、量産上の懸念を具体的に指摘できていない。この状態では、DRは通過儀礼です。

対策の起点:DRの場で「この設計で、量産時に何が起きうるか」を製造側から必ず1件以上出すルールにする。出せない場合は、まだ図面を読み込めていないということです。

型2:加工条件が「人」に依存している

標準作業書はある。しかし中身を見ると「様子を見ながら調整する」「いつもの要領で」と書かれている。あるいは数値は書いてあるが、その数値がなぜその値なのか、誰も説明できない。

この状態だと、ベテランがいる間は品質が保たれます。問題は、その人が休んだとき、異動したとき、退職したときです。そして品質トラブルは、たいていそのタイミングで起きます。

「うちは熟練者の腕が支えている」は誇るべきことですが、それが記録されていないことは別問題です。技能そのものは簡単に移転できません。しかし、その人が何を見て、何を基準に、どう判断しているかは、聞き取って残すことができます。

対策の起点:ベテランに「今、何を見て判断しましたか」と横で聞きながら記録する。1工程あたり数時間で、驚くほどの情報が出てきます。同じ工程を複数の担当者で担当すると、ベテランの暗黙知が形式知化されやすくなります。

型3:試作と量産が断絶している

試作品は問題なくできた。ところが量産に移した途端、不良が出る。よく聞く話ですが、これは当然の結果でもあります。試作と量産では、次のすべてが違うからです。

  • 作る人:試作は熟練者や技術者。量産は交替勤務の作業者
  • 速度:試作は時間をかけられる。量産はタクトタイムに縛られる
  • 設備:試作は汎用機。量産は専用ライン
  • 材料:試作は選別された良品ロット。量産は通常ロットのばらつきを含む

試作が成功したことは、量産できることの証明にはなりません。試作の目的は「作れること」の確認ではなく、「量産条件のばらつき範囲でも成立すること」の確認であるべきです。

対策の起点:量産移行の判定ゲートを設ける。「試作が通ったから量産へ」ではなく、量産条件・量産材料・量産作業者で確認できたか、をチェック項目にする。項目は5つ程度で十分です。

型4:対策が「その場」で終わり、資産にならない

トラブルが起きる。原因を調べ、対策を打ち、報告書をまとめる。そこまではやっている会社が多いと思います。しかし——

  • 原因究明が「作業者の確認不足」で止まっている(それは原因ではなく現象です)
  • 他の製品・他のラインへの水平展開がされていない
  • 次の新製品の設計標準やチェックリストに、反映されていない

この状態だと、対策は「その製品の、その不具合」にしか効きません。数年後、別の製品で同じ構造のトラブルが起きます。再発防止とは、個別の対策を打つことではなく、仕組みを整え、組織の判断基準を書き換えることです。

対策の起点:不具合対策書に「設計標準への反映欄」「他機種への展開欄」を1行加える。埋まらないまま閉じさせない。それだけで、対策が資産に変わり始めます。

大がかりな仕組みは、要りません

ここまで読んで、「大企業だからできる話でしょう」と感じられたかもしれません。しかし、上に挙げた4つの対策の起点は、いずれも新しいシステムも、人員増も必要としません。

  • DRで製造側から懸念を1件出すルール
  • ベテランの判断基準を聞き取って書き残す
  • 量産移行の5項目チェックリスト
  • 不具合対策書に2行追加する

むしろ中小企業のほうが、設計・製造・品質の距離が近く、決めればすぐ運用に移せます。大企業では部門間の調整だけで数か月かかることが、経営者の一声で来週から始められる。これは大きな強みです。

おわりに

品質トラブルの再発は、現場の努力不足ではなく、仕組みの問題です。そして仕組みは、型が分かれば直せます。

「前にも似たようなトラブルがあったよね」という言葉が出たとき、それは責める合図ではなく、仕組みを見直す合図です。

廊下の小指も、同じでしょう。何度も気をつけたのに、また今日ぶつけた。そこでようやく、人は家具を動かします。そして、二度とぶつけなくなる。

4つの型のどれに当てはまるか。次の一件で、確かめてみてください。

3分で読める:現場で使える経営のヒント

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